ざぁ、ざぁと。 降り止まぬ、雨。 窓外を眺めながら、テオは小さく息をついた。酒瓶を呷るようにしてから、もう中身がないことに気付いて壊れ気味のテーブルに放る。からん、と微かな音を立てて透ける濃紫の瓶は転がっていき、壁にぶち当たって漸く動きを止めた。 頬杖をついて、椅子の上で片足を組む。 ぎしりと軋んだ。テオも、椅子も。 暗い。 角灯の火を消してあるのだから、それは当然のことだったが、叩き付けるような豪雨のせいでいつも以上に室内が暗い気がした。 「……」 テオは身じろぎ一つしない小さな身体に眼を向けた。 銀の髪が、ほんのりと濡れた雨の余韻を残している。 閉じた瞼はきつく、だが覚醒する気配はない。どこまでも無防備に、フェンベルク・ストライフは眠っている。 その姿を、見て。 テオは、沸き上がるどす黒い衝動を全神経を総動員して抑え込んでいた。 彼女は確かに否定しようもなく、テオ達グールを阻害し、押さえつけ、蔑視し辱めてきた王家の末子だ。 だが。 だが、だが、だが。 彼の兄は彼女を確かに尊んでいた。兄の手紙にはいつも彼女への親愛が綴られていたのだ。――――フェンベルク・ストライフは唯一、グールの味方であると。 テオは今でも、彼女を殺したくなる。その全身の血が滾るような感覚は、ふと、それこそ不意をついてやってくる。その喉を掻き切り、腹を裂き、その血で染め上げてやりたい、と。そう、本能と言うべき何かが訴えてくる。 けれど彼女もまた、忌まわしき王家に棄てられ使い潰された一人だ。罪人の烙印を押されテオに買われた娘だ。 何よりも、兄が信じた人間だ。 テオはきつく拳を握りしめた。 ざぁざぁと鳴る、雨を聞く。その、人より数倍は高い聴力で。 どうか。 どうか、その眼を醒ましてくれるな。 明日、この暗き夜が明けるまで。 (決して弾みにおまえを殺してしまわぬように) |