セシルのお土産







「姉上はなかなか土産をお気に召さないな」

 露店の前でふぅむと軽く唸りながら、セシルは無表情に呟いた。片眼鏡の鎖がしゃらりと揺れる。柔らかな風に、しかし全く関心を示さない。
 
「やはり姉上は好みがおかしいのだろうか…」

 クレアが聞いたら「おかしいのはあなたの好みでしょう ?! 」と突っ込むところだが、生憎今は彼と露店の眠たそうな店主しかいない。当たり前だが店主は突っ込んだりしない。そんなネギしょったカモを逃がすような真似をする商売人がおろうか。
 ともかく、セシルはじっと陳列する奇怪な土産物を凝視していた。周囲は明るい怒声(・・)で満ちており、ひっきりなしに楽の音が響いている。平たく言えば、五月蝿い。

「ふむ、店主。これはなんだ?」
「ああん?……ああ、それは“領主を噛む白鳥”だよ。最近流行りの柄でねぇ」
「ほう…」

 充血したまなこでやせぎすの男に噛み付く、あと少しで後ろにある焚き火に焼かれるところだったのだろう白鳥の姿に、セシルは仄かに目を見張った。さら、と銀髪が音を立てる。

「流行りか」
「流行りでさぁ」

 ほう、ともう一度呟く。
 流行り。よくは分からないが、これならばあの姉――あの、現トゥーラの祭司の娘も、喜ぶやもしれぬ。
 そこまで考え、テスカトリポカはふと眉を寄せた。……何故そんなことを思案しているのか。

「……店主、その壺をくれ」
「あいよ」

 嬉しそうに、店主が景気の良い声で請け負って、妙に高値の金額を提示する。セシルは首を捻りながらも素直に代金を支払った。

 朗らかな姉の顔を思い浮かべながら。





あの少女小説は団長×副長押しなんですが多分公式は魔王なんだろーな……とかなりしょんぼりしてます。でも好き。
で、そんなあの話の中で一番好きなのがこの弟くんだったりします。